ウルトラセブン再考 / 第1話-第12話
1966年7月17日に本放送を開始した国民的特撮番組『ウルトラセブン』。
地球防衛軍に所属するウルトラ警備隊とウルトラセブンが、地球侵略を狙う宇宙人と戦う姿を緻密なメカニック描写とともに描き、現在まで続く熱狂的な支持を得ている。
“ウルトラセブン本放送開始55周年”を記念して、制作の裏話とともに全話 (まずは12話まで) を振り返ります――。
目次
第1話「姿なき挑戦者」
第1話「姿なき挑戦者」
各地で人間の消滅事件が続発し、地球防衛軍は宇宙人の仕業だとして、ウルトラ警備隊に捜査命令を出した。
パトロール中の防衛隊員が自動車ごと消された現場にポインターで急行するフルハシ隊員とソガ隊員の前に、“モロボシ・ダン”と名乗る謎の男が現れた。
今回の事件は、地球侵略を企む恐るべき宇宙人によるものだという。地球の平和を守るため、ウルトラセブンとウルトラ警備隊の戦いが始まった――。
【制作裏話】
冒頭、検問で車検証を出した途端に消えてしまう運転手は、ウルトラセブン撮影班のロケバスのドライバーが演じている。
なお、作品中にアンヌ隊員がダン隊員に対して「“あなたの”地球がピンチに立たされているのよ」と言うシーンがある。
これは、アンヌからの「隊員を助けてくれたお礼に何かプレゼントしたい」という申し出に、ダンが「地球!」と答えるシーンがあったため。
しかし、放送ではこのシーンがカットされてしまっているので、唐突な台詞となっている。
ちなみに、第1話は制作順では第5作目で、人力で開け閉めしていた作戦室の自動ドアが滑車で左右同時に動くようになったという。
宇宙ステーションV3勤務の石黒隊員の家の庭に、謎の隕石が落下した。それと同時に、石黒隊員が休暇で地球に一時帰還することになった。
謎の隕石は、ワイアール星で産出される金属でできており、石黒隊員宛てに届いた物体も、謎の隕石と同じ物質でできていた。
その物体からは謎の電波が発せられ、石黒隊員はみるみるうちに緑色の植物怪人に変身し、街ゆく人々を襲い始めた――。
【制作裏話】
メディカルセンターで、麻酔ガンのパラライザーでワイアール星人に立ち向かうシーンがアンヌ役のひし美ゆり子氏のファーストカット。
1967年7月17日月曜日の午前中の撮影だったという。
また、ワイアール星人のスーツアクターは複雑な動きが必要ないため、仕出しの人がやっていたが、脱水症状と酸欠で倒れてしまったとのこと。
なお、セブンとワイアール星人との戦いの時、アンヌ隊員が唐突に「ウルトラセブン頑張って!」と叫ぶシーンがある。
これは第1話のラストで、キリヤマ隊長がウルトラ警備隊を救ってくれた7番目のヒーローにちなんで「ウルトラセブン」と命名したシーンがカットされてしまったため。
特撮シーンの撮影の方がお金がかかっているため、特撮シーンの尺が長くなると本編のシーンを削ることが多々あったという。
木曽谷付近に巨大な物体が落下したとの情報を受け、ダン隊員とアラシ隊員が調査に向かうと、二人の前に謎の少女が現れた。
二人の前から姿を消した少女は、湖のほとりに着陸している宇宙船の中にいたが、船内に発生した催眠ガスで3人とも眠らされ、ピット星人にウルトラアイを盗まれてしまう。
メディカルセンターに運ばれた少女だったが、同じ姿をした別の少女が現れ、宇宙船から指令を出すと、湖から宇宙怪獣エレキングが現れた――。
【制作裏話】
第2話と並行して、最初に撮影された作品。富士五湖の西湖と奥多摩でロケが行われた。
午前中、アンヌ役のひし美ゆり子氏は髪をアップにして撮影していたが、午後に現場に顔出した満田監督に「SFなのに都はるみみたいだ」と大不評で、髪を下ろすことになった。
しかし、制作費の関係で午前中に撮影した分の撮り直しができないため、髪を下ろすシーンが急遽付け加えられた。
ちなみに、アンヌ隊員がパラライザーでワイアール星人を撃つシーンで、銃が重すぎて手が震えてしまうということで、手のシーンは助監督の本多猪四郎監督の息子の隆司氏。
エレキングは電気うなぎがモチーフになっている。体色が最初は白だったが、撮影が進むにつれて黄色くなっていったという。
エレキングが川を下るウルトラ警備隊を攻撃するシーンは、美センのオープンセットに岩山のミニチュアセットを組んで撮影されている。
アンヌ役のひし美ゆり子氏が初めて行ったロケが、このウルトラ警備隊がボートに乗って川を下るシーンだったという。
ダン越しのエレキングのシーンでは、東宝技術研究所のフロントプロジェクションが使用されたが、スクリーンの継ぎ目が映ってしまうため後半はあまり使われなくなった。
なお、この作品が撮影された日、森次氏は40度近い高熱を出していたとか。
謎の船舶消失事件の極秘調査のため、ダンの運転するポインターで原子力船マックス号へ向かったソガ隊員とアマギ隊員。
その帰り道、ダンは車の故障を装った謎の女に不意を襲われ、ウルトラアイを盗まれてしまう。
船舶消失地点に到着したマックス号も謎の赤い霧に襲われ、宇宙空間まで運ばれてしまう。それは、地球防衛軍の壊滅を狙うゴドラ星人の仕業だった――。
【制作裏話】
冒頭のポインター走行シーンで、英語詞曲『ULTRA SEVEN』が初めて使われた。
マックス号の中でタケナカ参謀を案内する船員は、ウルトラセブンのスーツアクターを務めていた上西弘次氏が演じている。
また、この回からウルトラホーク発進時に「フォース・ゲート・オープン!」などの満田監督による英語アナウンスが加わっている。
この作品が満田監督の下での初めてのロケで、主要ロケ地は朝霞高原。撮影後の宴会で、満田監督自身がステージ上で宴会芸をやって盛り上げていたとか。
マックス号が停泊している設定の海岸は、本栖湖でロケが行われている。
なお、巨大化したゴドラ星人とセブンの戦闘シーンのBGMは、不採用となった主題歌候補曲のインストゥルメンタルver.が使われている。
のちに、この曲には『ウルトラセブンの歌PART2』という曲名がついた。
南極の地下にある地球防衛軍科学センターから、“地球の頭脳”と呼ばれるユシマ博士が、地球防衛軍極東基地のレーダー設備を強化するため来日した。
極東基地に到着したユシマ博士はウルトラ警備隊の出迎えを受け、フルハシ隊員が宿泊先のホテルで身辺警護を担当することになった。
しかし、ユシマ博士はジェット機乗船中に、地球征服を企む宇宙蝦人間ビラ星人によって、心を乗っ取られていた――。
【制作裏話】
ユシマ博士が宿泊したホテルは、現在の「ミスティイン仙石原」。
セブンとビラ星人が戦うシーンの神社のミニチュアセットは、この回の美術を担当した池谷仙克氏によると、上野や浅草近辺を想定したという。
また、ダンがポインターの車中で唐突に「なぜあんなことを言ったのだろう」というシーンがある。
これは、ユシマ博士が「そうだ。昨日は宇宙人の夢を見たな。地球防衛軍に一人だけ宇宙人が紛れ込んでいてね」と言うシーンがカットされてしまったため。
地球防衛軍のアンヌ隊員の部屋に「宇宙のある都市からやってきたが、重症を負っているため匿ってほしい」と言う黒い影が現れた。
その頃、地球防衛軍に宇宙空間都市・ペガッサ市から、動力系統の故障により修理が終わるまで地球の軌道変更を要請する無線が入った。
しかし、地球の軌道変更は現実的に不可能。マナベ参謀は「ペガッサ市を破壊する以外に地球を防衛する道はない」との結論に達するが――。
【制作裏話】
作戦室の通信員の一人(一番右端)を、ウルトラセブンのスーツアクターだった上西弘次氏が務めている。
アンヌ隊員がプライベートルームで紅茶をこぼすシーンは撮り直しができないので、ひし美氏はとても緊張したとのこと。
ちなみに、ひし美氏が一番好きな宇宙人はペガッサ星人とのこと。
なお、物語終盤でアンヌの部屋を抜け出したペガッサ星人とモロボシ・ダンが対峙するのは、世田谷区総合運動場体育館の前。
山奥で2人の猟師が宇宙船のような謎の物体を発見、その後何者かに襲われた。その後、ガソリンスタンドが怪物に襲われ、ガソリンを口から補給した。
ちょうどその頃、宇宙ステーションV3と地球防衛軍極東基地が宇宙からの怪電波をキャッチした。
その電波を解読すると発信元は惑星キュラソの連邦警察で、「犯罪者303号が宇宙に逃亡。凶悪な殺人鬼なので発見しだい殺害せよ」という内容だった――。
【制作裏話】
第10話と一緒に撮影されたこの作品では、ガソリンスタンドの店員役で『ウルトラQ』で戸川一平役を務めたが西城康彦氏が出演している。
劇中に出てくるガソリンスタンドは、深大寺近くにあるガソリンスタンドがロケ地として使用されている。(当時の建物は現存していない)
なお、キュラソ星人に襲われる家族の3人の子供たちは、『快獣ブースカ』のキャストが特別出演している。
(長男役の山村哲夫氏はチャメゴンのスーツアクター、妹役の中原純子氏はミー子、弟役の伍代参平氏はチョロ吉)
なお、山村氏は、第25話『零下140度の対決』の冷凍ガンダーと31話『悪魔の住む花』の宇宙細菌ダリーのスーツアクターも務めているという。
北川町の住人が突然狂暴化する不可解な事件が続発。しかも、暴れている時の記憶は無くなっているという。
さらに、パトロール中に北川町駅前の自販機で買ったタバコを吸ったフルハシ隊員とソガ隊員が作戦室で暴れ出し、その後昏睡状態になる。
ダン隊員がタバコを調べると、中に赤い結晶体が入っており、化学班による調査の結果、その結晶体は地球上の物質ではないことが判明したーー。
【制作裏話】
ダンとアンヌがたばこの自販機を見張るシーンは、小田急線の向ヶ丘遊園駅前にあった喫茶店で撮影された。
セブンとメトロン星人との格闘シーンは、10月17日、19日(Dステージ)、20日(Aステージ)とステージを変えて丁寧に撮影されている。
あの有名なクロージング・ナレーションは台本には書かれておらず、実相寺監督が書き下ろしたものである。
ウルトラセブンは海外での販売を考慮して、映像に日本的な風習・風景は取り入れてはいけないという不文律があった。
しかし、実相寺昭雄監督は、脚本で“ある円筒形のビル”とされていたメトロン星人のアジトを古ぼけたアパートにしてしまい、さらに、畳にちゃぶ台というシーンを撮ってしまう。
その映像を観たTBSのプロデューサーの三輪俊道氏は怒って局中を探し回ったが、彼は隠れて出てこなかったという。
なお、本作でも、遠近感や陰影の強調、あおり&ナメショット、シンメトリー配置などが特徴の“実相寺アングル”が随所にみられる。
ポインターでパトロール中のフルハシ隊員とソガ隊員の前に、謎の金髪美女が現れた。
フルハシ隊員をダン隊員と誤認したその女が握手をしたところ、フルハシ隊員に電撃を浴びせて逃亡。手には謎の文字が書かれたブローチが握られていた。
一命を取り留めたフルハシ隊員だったが、アマギ隊員の調査によると、ブローチは宇宙金属でできており、謎の文字は“アンドロイド0指令”と書かれていたーー。
【制作裏話】
この作品は上原正三氏によるウルトラセブン初脚本だが、アンヌの台詞は1行のみしかない。
これは、ひし美氏がスタッフやキャストと飲み歩いて女優としての意識に欠けていると判断した満田監督がお灸をすえる意味で行ったという。
しかし、当の本人は「台詞が少なくてラクだわ」と逆に喜んでいたという(笑)
ロケ地としては、当時の松屋銀座の店内にあったおもちゃ売り場が使われている。セブンが階段を駆け上がるシーンも同店での撮影。
なお、チブル星人の「チブル」は沖縄の言葉で、「頭」を意味する。
交通事故で足を骨折した少年が別荘で療養していたところ、隣の家に引っ越してきた隣人が24時間椅子に座り続けて何かを造っているのを目撃する。
そんなある時、鳥が死んだまま空中に浮かび続けるという現象が起こり、その光景に驚いた家主はウルトラ警備隊に通報する。
ダンが鳥が浮かんでいた空間に飛び込むと、そこは第17惑星から来たイカルス星人が四次元空間に作った地球侵略のための前線基地だった――。
【制作裏話】
イカルス星人の方から首にかけての剛毛は、亀の子タワシの繊維を植えたもので、スプレーで黒くしている。
着ぐるみはの納品時は綺麗すぎたため、円谷プロの造形部が表面をスポンジで丸く擦って、自然な汚しをかけたという。
なお、イカルス星人が耳をパタパタするシーンでは、スタッフが後ろに立って人力で行っているが、DVDではその手が見えている。(Blu-rayでは消されている)
ちなみに、この回の撮影で使われた屋敷で、差し入れのみかんを持ってきたひし美氏がちょっとしたやらかしをしている。
照明スタッフにみかんを投げたところ、シャンデリアを直撃して一部が欠けてしまい、弁償する羽目になってしまってギャラ2本分がパーになったとか。
なお、ラストシーンでポインターを運転しているのはダンではなく、ポインター専門のドライバースタッフの小山氏。
群馬県の石見山で若者が死亡する事件が相次ぎ、死因はいずれも不明だという。
ダン隊員とソガ隊員がさっそく調査に訪れたところ、岩陰から伸びた銃による攻撃を受けたダン隊員が命を落としてしまう。
その後、ウルトラ警備隊は石見山の洞窟に向かうが、謎の宇宙人と交戦になり、姿を消した場所には、人の生命を吸い取りフィルムに転写する装置が落ちていたーー。
【制作裏話】
満田監督を怒らせてしまったひし美氏は、お灸を据える意味でこの回での出番が無くなくなってしまったという。(ロケには参加していた)
ロケ地は浅間山の鬼押出周辺で、洞窟シーンは三浦半島で撮影された。
この回では、ワイルド星人に殺された幸村役でセブンのスーツアクターの上西弘次氏、牧場の3人の牧童がをスーツアクターの新垣輝雄氏、鈴木邦夫氏などが演じている。
なお、ダンの魂と肉体の合成作業を行う機会は、TBSが所有していたオプチカルプリンターで、ダンが生還するシーンは円谷プロ本社の試写室で撮影が行われた。
なお、本作では、脚本を担当していた金城哲夫氏と上原正三氏が医師役でカメオ出演している。
東京で、数日の間に若い女性が突然倒れて意識不明になるという事件が相次いだ。
倒れていた女性は皆、同じ型の時計型のアクセサリーをしており、驚くことに地球上には存在しない金属で作られているという。
さらに、女性たちは白血球が皆無に近くなる原爆病に似た症状になっていた。その頃、アンヌ隊員は、高校時代の友人を久しぶりに訪ねるがーー。
【制作裏話】
スペル星人は当初、脚本家の佐々木氏によってカブトムシのような甲虫系の怪獣とされていた。
しかし、実相寺監督が「上下白タイツでケロイドのような痣のある姿」というデザインを指定したため、「自身の信条と相反する」と美術の成田氏は激しく抵抗したが、押し切ったという。
ちなみに、この回は現在は欠番になっており、視聴できなくなっている。
そもそもの発端は、本エピソードの放送から3年後、小学館の学年誌の付録についた怪獣カードで「ひばく星人」として紹介されたことにある。
これをきっかけに、原爆被害者団体が「被爆者を怪獣扱いしている」と出版社と円谷プロに抗議。
1970年10月10日付の朝日新聞でも報じられ、全国の被爆者団体と反核団体からの抗議が円谷プロと小学館に殺到することになった。
そして、1970年10月21日、事態の収束を図るため、円谷プロの当時の社長・円谷一氏が被爆者団体に第12話の封印を約束する運びとなったのが欠番騒動の流れとなっている。
しかし、本作はウルトラマンでフジ隊員を演じた桜井浩子氏が出演し、ラストシーンのアンヌ隊員の台詞が最終回でのアンヌ隊員がダンに語る台詞の伏線にもなっている。
欠番の原因が「被爆者を怪獣扱いしている」というクレームであるならば、成田氏のデザインを元にスペル星人を再造形して特撮シーンを撮り直せばいいのではなかろうか。
いずれにしても、『ウルトラセブン』を欠番の無い完全体に戻すために、何かしらの形での復活が望まれる――。
当初は、ウルトラセブンの全話数の約半分にあたる25話まで作成して投稿する予定でした。
しかし、平日は仕事の疲れで記事の更新ができず、土日もやりたいことややるべきことに追われて記事の作成が遅々として進まず、記事の投稿がいつになるかわからない状態になっています。
なので、第12話までまとめたところで一旦投稿させて頂きます。
第13話から第25話までの紹介と編集後記については、なるべく近日中にまとめる予定ですので、ご了承下さい。
なお、2023年7月23日(日)に、ウルトラマンとウルトラ警備隊のアマギ隊員を演じた古谷敏氏の80歳を祝うイベントが星稜会館ホールにて開催されます。
当日券が10枚用意されているとのことですので、興味のある方は足を運んでみて下さい――。
【出典】「ウルトラセブン研究読本」「ウルトラセブンの帰還」
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