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東宝ビルト(旧東京美術センター)

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 東宝ビルト(旧東京美術センター)


 世田谷区大蔵に、1962年10月から2008年2月にかけて存在していたウルトラマンの撮影スタジオ「東宝ビルト」。

 ウルトラマン55周年を祝して、1964年9月27日の「ウルトラQ」の撮影開始以来、様々なウルトラ作品を生み出し続けた東宝ビルトについて紹介します――。






 ウルトラ作品の故郷


 東宝ビルトは、1962年10月に東宝撮影所の美術工房「東京美術センター」として誕生。

 そのルーツは、黒澤明監督作品の「七人の侍」(1954年)や「用心棒」(1961年)で大蔵の地がオープンセットとして使用されたことにあります。

 その際、オープンセットでの撮影に使用する美術道具の倉庫やスタッフの控室などが作られ、撮影所としての体を成していったようです。





 1964年秋の「ウルトラQ」の撮影以来、スタッフからは”美セン”と呼ばれて親しまれ、ここで様々なウルトラ作品が生み出されていきました。

 当時の撮影スタジオは、屋根も壁もトタン板のような材料で簡易的に作られていました。

 そのため、雨が降ると雨音が激しく、風が吹くと木々の枯葉が屋根に落ちる音がスタジオに響いて、セリフがまったく聞こえなかったそうです。





 壁も隙間だらけで、雪が多い日はステージ内に雪が吹き込んで積もって撮影が中止になったこともあったとか。

 また、冷暖房も無かったため、夏は灼熱地獄となり、冬は建物の囲いが風を遮るだけの冷蔵庫の中にいるようだったといいます。



 1966年頃の美セン


 下記の画像は1966年頃の美センの全体図で、国土地理院が撮影した航空写真から立体風に描き起こしたものだそうです。

 まだ建物が6つほどしかなく、食堂棟もなかったため、正門前にあった定食屋を利用したり、成城学園駅近くまで食べに行ったりしていました。



[出典 Facebook | 大石一雄]


 下方にある温室は、ウルトラQ第8話「甘い蜜の恐怖」の撮影に使われたそうです。スタジオには園芸業者も出入りしていたとか。


 



 美センから「東宝ビルト」へ


 1973年11月に撮影所としての機能が大幅に強化され、施設の名称も東京美術センターから「東宝ビルト」に変更されました。

 ちょうど、「ウルトラマンタロウ」が撮影・放送されている時期といえます。

 こちらが1974年の東宝ビルトの様子です。左下に江戸の町のオープンセットが見えますが、1981年1月の火災で焼失してしまいました。

 

[出典 Facebook | 大石一雄]



 東宝ビルト全景


 2007年頃の空撮写真(Google Earth参照)を元に、東宝ビルトの敷地内にあった建物や場所について簡単に紹介します。


  
  [出典 Google Earth]


 正門





 往時の東宝ビルトの正門は、コモレビ大蔵の案内板のあるこの場所付近にあったようです。







 守衛の建物が正門近くに無いのは、「ウルトラマンティガ」が撮影される前まで正門が守衛の手前側にあった名残です。





 T字路付近からの写真を比較すると、正門があった場所がよくわかります。







 桜井浩子氏の著書「ウルトラマン青春期」によると、東宝ビルト前の道路でハヤタ隊員が飯島監督の指示でカッコよく走る練習をしていたそうです。


      


 なので、東宝ビルト前の道路は、さしずめ”ハヤタロード”といったところでしょうか。


      



 第5スタジオ(旧Aステージ)


 特撮のメインスタジオで、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などのマスコミ向け特写会にも使われました。

 マスコミへの初のお披露目になったウルトラマンの第1回特写会は、1966年4月1日に実施。







 当初の予定では、ウルトラマンの目の下を削って透明な素材をはめる予定でしたが、特写会に間に合わずドリルで穴を開けることになりました。






 ここは、ウルトラマンやウルトラセブンなど様々なウルトラ戦士が幾多の怪獣と闘った”ウルトラマンの戦場ヶ原"でした。







 ウルトラマンの最終回「さらばウルトラマン」でのゼットンとの闘いも、1967年3月22日にこのステージで撮影が行われました。






 旧Eステージ


 科学特捜隊の作戦室セットがあったステージ。夏は暑く、冬は冷蔵庫の様な寒さで、錆びたトタン屋根だったので雨漏りもしたとか。





 当時の制作日誌によると、ゴモラが大阪城を壊すシーンはこのステージで撮影されたようです。





 途中からは特撮ステージではなく倉庫として使用されており、「ウルトラマンメビウス外伝・アーマードダークネス」の特典映像で紹介されています。






 第6スタジオ


 正門のすぐ傍にある第6スタジオには、ウルトラセブンのウルトラ警備隊の作戦室のセットが造られていたそうです。









 地球防衛軍の地下基地の廊下やメディカルセンターなども同じスタジオで、他に特撮用のスタジオ、ウルトラホーク1号~3号の操縦席用のスタジオもありました。










 制作部


 ウルトラマンの終わりかウルトラセブンぐらいの頃、二階のかなり広いところにデザインルームができたそうです。

 それ以来、成田亨氏は円谷プロダクションの文芸企画室で行ったデザインの打ち合わせをそこで行っていました。





 美術部の作業場にもなっており、怪獣の縫いぐるみなどの様々な造り物が、室内では収まり切れずに、入り口の方にはみ出させていたとか。

 夜を徹して作業していたため、実相寺監督が入り口を入っただけで活気が伝わってきたそうです。



[出典 Facebook | 大石一雄 ]


【フクシン君のアパート】

 なお、この建物はウルトラセブン第45話「円盤が来た」で、アマチュア天文家のフクシン君が自宅で天体観測をするシーンに使われています。





 撮影するシーンのために、窓の外にベランダのセットを作ったそうです。




 
 ウルトラ警備隊からウルトラ勲章を贈られポインターでアパートまで送迎されるシーン。右側に見えるのは、当時存在したDステージ。






 オープンセット


 東宝ビルトの敷地の南西にあったオープンセット用の敷地。

 夜間撮影もできた所内の屋外撮影スペースで、ウルトラマンの姿を下から仰角で撮影する時などにも利用されていました。







 ウルトラセブンの川を下るウルトラ警備隊を攻撃するエレキングのシーンや、最終話でダンがアンヌに自分の正体を明かすシーンはここで撮影されたそうです。







 また、「ガメラ大怪獣空中決戦」の東京タワーのシーンも、東宝ビルトのオープンセットに精巧なミニチュアを造って撮影されました。





 秋になると、オープンセットから眺める夕暮れに切なさを感じていたスタッフもいたそうです。




 ビルトサロン


 東宝ビルト内にあった食堂棟。

 ウルトラセブンの撮影途中に出来たとのことですが、実相寺監督によると第45話「円盤が来た!」の撮影時はまだ無かったそうです。





 円谷英二監督は、サロンではカレーライスばかり食べていたとか。

 食堂の様子を撮影した映像は、1982年3月に日本テレビ系列で放送された青春シリーズ「陽あたり良好!」の特典映像に収録されています。





 食堂内の様子はこんな感じになっていたんですね。





「ウルトラマンメビウス外伝 / アーマードダークネス」の特典映像には、ビルトサロンで撮影された写真が収録されています。








 ウルトラマンの決意


 過酷な撮影が続き、心身ともに疲弊していたウルトラマンのスーツアクター・古谷敏氏。

 そんなギリギリの精神状態の時、ある新聞に書かれていた自身の演技に対する批判的な記事を読み、ついに心が折れ、ウルトラマンを降板することを決意する。

 朝、撮影前に円谷プロに行ってそのことを伝えようと、いつものように渋谷駅から成城学園前駅行きのバスに乗った。  


     
 

 すると、松陰神社前のバス停で乗ってきた子供たちが目を輝かせて、楽しそうに興奮しながらウルトラマンの話をし始めた。

 子供たちが「次が待ち遠しい」と心から喜んでいる姿を見て、自分のことばかり考えて自己弁護ばかりしている自分が恥ずかしくなった古谷氏。

 その瞬間、特写会で円谷英二監督から話しかけられたが、周りが騒がしくて「夢だよ、夢をこ・・・」までしか聞きとれなかった言葉の全体を理解した。

 「夢だよ、夢を子供たちに見させてあげるんだよ」

     



 古谷氏も子供の頃、『鞍馬天狗』というヒーローに夢中になり、映画を観るといつも夢の中にいるような気持ちになったことを思い出した。

 「ウルトラマンを降りるのをやめよう。子供たちが自分の夢を育てるその手伝いをしよう。僕にしかできない、いつまでも子供たちの心に残るヒーローを作ろう」

 そう誓った古谷氏は、東宝撮影所前でバスを降り、子供たちが乗ったバスに一礼し、美センへの道を胸を張って歩き出した――。




[出典 ウルトラマンになった男 | 古谷敏]



 ウルトラロード


 ウルトラマンのスーツアクターの古谷敏氏やハヤタ隊員役の黒部氏は、渋谷から東宝撮影所前までバスで、そこから徒歩で東宝ビルトまで通っていました。


     
     

 当時、藤沢に住んでいたモロボシ・ダン役の森次氏は、祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩通勤でしたが、アンヌ隊員役のひし美氏は成城学園駅前からタクシー通勤。

 なので、タクシーに乗ったアンヌがいつも「ダーーン!」と声をかけながらビューンと通り過ぎて行くのが悔しくて仕方なかったとか(笑)

      


 ロケでの撮影でも一度美センに集合し、7時頃にロケバス、電源車、制作車、機材車数台が細い道から列を作って出発していたそうです。

 当時は一方通行になっていなかったため、対向車が来ると目も当てられなかったとか。

 俳優たちは美センでの撮影が終わると、毎日、東宝撮影所(現・東宝スタジオ)の演技課に定期報告に行っていたそうです。

 そんな数々のウルトラ作品の出演者が歩いたこの道は、”ウルトラロード”といえるでしょう。

     



 現在の東宝ビルト


 往時はこの場所で幾多の怪獣たちがウルトラマンと戦い、数多くの戦闘機が発進し、たくさんの隊員たちが指令室に集っていました。

 しかし、施設の老朽化と拠点集約のため2008年2月をもって東宝ビルトは閉鎖。

 2007年12月2日の「ウルトラマンメビウス外伝・アーマードダークネス」の撮影が、東宝ビルトにおけるウルトラマン作品最後の撮影となりました。





 所内の建物は全て解体され、現在は「コモレビ大蔵」という集合住宅になっており、跡地碑も無いため、当時の面影は全くありません——。





・東宝ビルト跡
 東京都世田谷区大蔵5丁目20




 編集後記


 「本家の東宝のような立派なステージ群とは違ったブリキ張りにトタン屋根の倉庫といった空間に、我々はウルトラの夢を結んでいたのである」(実相寺昭雄)

 今や国民的作品となった”ウルトラシリーズ”を生み出した伝説のスタジオ「東宝ビルト」。

 しかし、当時の東宝スタッフには「あんな小さな画面で何が面白いのよ」「あれは電気紙芝居だ」とテレビをバカにしていた人がいたそうです。

 さらに、美セン時代には冷房が無く、照明が多くて熱がこもる上に扇風機の風もセットには届かない過酷な環境。

 そのため、ウルトラマンは地球上では体力の消耗が激しく3分間しか戦えませんが、実際の撮影も同じような状況だったそうです。

 「スーツは体にぴったりのため皮膚呼吸ができず、演技のできる時間は15分が限界だった」
 「仮面の内側のウレタンがびしょびしょで、手袋や靴に汗がたまっていた。頭の毛も体もシャワーを浴びたように汗が流れていた」
 「ゴムのスーツで全身が締め付けられてだんだん手足が痺れて指先が重くなってくる。仮面を被ると息がしずらくなり、呼吸困難で頭がボーッとしてくる」
 「ライトが当たると、仮面とゴムのスーツが触れられないぐらいに熱くなる。裸で入っているので暑いのではなく、熱いのだ」

 これは、古谷敏氏の著書「ウルトラマンになった男」に書かれている撮影時の様子。

 しかし、そういった過酷な環境にも負けない「子供たちに夢を与える」という純粋で崇高な志と熱意が作品に宿ったからこそ、ウルトラマンが不朽の名作になったと思います。

 しかし、そんな不朽の名作を生んだ伝説の場所に、ウルトラ作品とそれに携わったスタッフに対する感謝と敬意、称賛を示す『跡地碑』が無いという現実。

 後世に語り継ぐべき日本の文化遺産ともいえる国民的作品が蔑ろにされているようで、何ともやりきれません。

 いつの日か、東宝ビルト跡に跡地碑が建立されることを願ってやみません——。









【記事参照】「美セン(東宝ビルト) | 光跡」「Bin's Photo Collection 13」   
      「ウルトラマンを創った男 金城哲夫の生涯」「ウルトラマン青春期 フジ隊員の929日
      「ウルトラマン 1966+ -Special Edition-」「ウルトラマンの東京」  
      「アンヌ今昔物語 ウルトラセブンよ永遠に・・・」「セブンを撮った場所 世田谷編
      「サヨナラの余韻
【画像引用】「Mapio.net」「サヨナラの余韻-撮影所・東宝ビルト最後の日
      「不滅のヒーロー ウルトラマン白書」「ウルトラマンの現場
      「Twitter | @Nakaken_UPAL」「Twitter |@momk12」「Twitter | @
【記事参照 / 画像引用】「ありがとう東宝ビルト ~ウルトラマンと共に歩んだ40年~
           「証言!ウルトラマン」「ウルトラマンになった男
           「特撮と怪獣 わが造形美術



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